散文 #3
中学生のとき私には二人の友達がいて、仲良し三人組だった。
メンバーのひとりはミカちゃん、もうひとりはアオイちゃん、そして私。
ミカちゃんは、ちょっと不良ぽい女の子だった。禁止されているのに髪を染めたり、授業の途中で帰ってしまうような子だった。
アオイちゃんは、美少女なのだけれどほとんど笑わず、いつも隅っこでうつむいているような子で、皆から「暗い」と言われ敬遠されていた。
私は普通の子。クラスのカーストでも中の下くらいの、がんばってなんとかしぼり出しての評価が「普通の子」だったと思う。
三人が仲良くなったきっかけは、私がなにかの理由でクラスの皆から仲間外れにされてたときにアオイちゃんが気にかけてくれて、そこにミカちゃんも加わったのが始まりだったと思う。
私はわりと大人しい子供だったのだが、他人の機嫌を取るのが下手なようで、リーダー格の子に従わず怒らせたりして仲間外れになることがあった。それに中学校は小学校と違って暢気なままではいられず、居心地が悪いなあと思っていた。勉強も難しくなってくるし、部活動も忙しい、習い事もある。担任の先生は意識が高くて一年生のうちから受験に備えようなどと言う。
そんな、中学生にはよくありそうな理由でうんざりしていたときに、ミカちゃんとアオイちゃんと仲良くなって、私はなんだか救われたような気がしていた。
ミカちゃんはちょっと怖いのでつい顔色を伺ってしまうのだけど、私がビクついていると、なんだか腹が立つなぁなどと言いながらガムをくれたりする。そして面白くてエグい話をいっぱいしてくれた。
アオイちゃんは三人でいるときはよく笑った。お花のように可愛くて、ミカちゃんとわたしのマスコットだった。ほのぼのしていて、なにより親切だった。
三人はいつも一緒にいて、放課後にはミカちゃんの家に遊びに行き漫画を読んだりゲームをしたりした。三人でいるときは色々なことを忘れられて、快適だった。
そんなある日、母が「もうミカちゃんと遊ばないように」と命令を下した。理由は、ミカちゃんが不良ぽいのと、ミカちゃんのお兄ちゃんとその友達が本気の不良だからというのは分かっていた。しかし彼らは私達には無関心で話すことすらなかったので、なぜミカちゃんちで遊んじゃだめなのかとだいぶ反論したけど聞き入れてもらえなかった。
私は少しずつ遊びに行く機会を減らした。
アオイちゃんのお家はわりと放任主義のようで、私以外の二人はその後も変わらず仲良くしていたようだ。
だんだんと二人が話しかけてくれることが少なくなっていき、放課後に誘ってくれることもなくなった。
私は寂しかったけど、母の言いつけだからと自分で自分を慰めていた。しかし本当は、不良の仲間だと思われるのは私もイヤだったのだと思う。もしかすると少しホッとしていたかもしれない。
もう少しで中学を卒業する頃、隣のクラスだったアオイちゃんが突然たずねてきた。暗いとまで言われていたアオイちゃんなのに、その時はとても明るい顔をしていて可愛かった。
アオイちゃんが、「私彼氏ができたよ!」と言う。
とても嬉しそうだったので一緒に喜んだ。
相手は誰なのか聞いたら、ミカちゃんのお兄ちゃんの友達だった。正直(大丈夫かな!?)と思ったけどアオイちゃんの様子を見ていると大丈夫という気がしたし、単純に私に報告に来てくれたのがうれしかった。
三人は別々の高校に進んだ。
ミカちゃんはたぶんあの調子で自由にやっているのだろう。というか、遊ばなくなってからは話していないので、詳細は分からない。
アオイちゃんは通学中のバスでたまに見かけた。話すことはなかったけど、彼氏に合わせてどんどん風貌が変化していくアオイちゃんの様子を見ながら、羨ましいような寂しいような気持ちになった。
成人式のとき。ミカちゃんは出席していなかった。アオイちゃんはすでに結婚して子供が二人いた。中学生のときに報告してくれた彼氏が旦那さんだという。美少女だったアオイちゃんなのにぷっくりと太っていて、なんというか複雑な気持ちだったけど幸せそうだったのは確かだ。
私にとって友達だったのはミカちゃんとアオイちゃんだけなのではないか、と時折思うことがある。戻りたいと思うこともある。しかし不良と思われたくなくて二人から離れたという負い目もあって、行動はできずにいる。
高校生以降の友人関係といえば、友達と認識しかけた人達からは大抵の場合「ゆるくハブられる」という展開で関係を離脱してきた。それはあくまでも自分自身の問題なのだが合わせるのがめんどうなので、女性のちょっとした群れにはあまり近寄らないようにしている。単体ならわりと大丈夫だが、しかしそれだと憧れの「宅飲み」をするには弱いのだ。
あの頃のミカちゃんとアオイちゃんが数人ずつ集まった群れなら、私も受け入れてもらえるかもしれない。希望は捨てないでおこうと思う。