ねずみ君ち

読書やゲームやその他日常のことを細々と。

散文 #4

「いつもこうやってんの?変な力が入るでしょ」

(またそれかよ知ってる。私の竹刀の握り方がおかしいって言うんでしょ。先生にも注意されてるから分かってるけど癖になってるんだよなぁ。って、先輩!?)

「あ、ありがとうございます!」

「はは。俺は先生じゃないからよく分かんないけど、左手は軽く添えるかんじでいいんじゃないの?」

「はい!やってみます!」

 しかし私はすでに力が入りっぱなしである。竹刀の握り方を気にしている場合ではない。なぜなら彼は、私の憧れの先輩なのである。

 

 私は小学生の頃から剣道を習っていた。祖父が指導をしている道場で週に1回だけ稽古に参加していた。「稽古に参加」と中途半端な表現をしたのは何故かというと、私自身剣道への情熱があまりなかったのと、かつ祖父も甘かったからで、要するに適当にやっていたのだ。

 

 先輩は大学生で、この町へ越してくる前から剣道をやっていたらしく、うちの道場に来てまもなくから小さい子達の稽古の相手をしたり、世話を焼いたりする役割となっていた。

 なにしろ小さな町の小さな道場なので、普段稽古に顔を出すのは、体力づくりの名目で通わされている子供(私もこれだった)か、中年以降の大人や年寄りがほとんどだ。そこへシュッとした同じ年頃の男性が入ってきたのだ。高校生の私から見たら大人っぽくも見えるし、憧れるのが普通だと思う、うん。

 

 初めて会話をしてからの先輩と私は少しずつだけど打ち解けていった。稽古の合間には色々とお話もしたし、たまには稽古後の暗い道を一緒に帰ることもあった。お互いに自分達は仲良しかもしれないなぁと感じていたとは思うけど、それ以上でも以下でもなく、ただの「同じ道場に通う仲間」だった。

 

 そんなある日、道場の隅で袴を着けるのを手間取っていた私に、先輩が手を貸してくれていた。着替えの手伝いは普段から小さい子達にもやってあげていたし、私も深く考えていなかったのだが、今思うともう少し気をつけているべきだった。

 その時、私の背中側で袴の紐を持ってくれているはずの先輩の手が、何故か私のお尻を触っている。あれれおかしいな?と思い少し体をよじったりしても、先輩の手は私のお尻の上で動いている。頭のすぐ右上のほうから先輩の息が聞こえてくる。その手は下に移動していく。やばいぞと思った私は体ごと振り返った。先輩は私から体を離して目を合わさず紐を結び、無言のまま稽古に戻っていった。

 

 そのあと数週間、先輩は学校の用事という理由で稽古に顔を出さなかった。一方、私はどうしていたかというと、先輩のある意味痴漢とも思える行為についてひとりで悶々と考えていた。傷付いたような気持ちにもなったけど、これ以上考えてもしょうがないなと思い始めた頃、先輩が稽古に復帰した。

 その日、話をしなければいけないと思った私は先輩と一緒に帰ることにした。そしてそのまま促されるままに先輩の家に行った。ご家族は留守だったので先輩の部屋に直行してすぐ服を脱がされた。私は特に抵抗もせず成りゆきに従っていた。先輩は私の肩や胸を噛み、歯形をつけて笑っていた。

 

 私は先輩に突然お尻を触られたとき、傷付いた気持ちになった。でもその後先輩の部屋に行ったのは、好奇心もあり自分もある意味望んでいたことだ。その相反する気持ちがどちらも自分の中にあるということが処理しきれず、しんどくなった私はできるだけ先輩と二人きりにならないようにした。そして祖父の目もあると思うとさすがにいたたまれず、頃合をみて道場に行くのもやめた。

 

 数ヵ月後に先輩は電話をくれた。

「剣道やめたの?」

「はい」

「そっか、なんかごめんね」

 というあっけない会話で幕を閉じた、その時の私には難易度の高い交際だった。

 今となっては、現在の先輩が突然女性のお尻を触ったりしていないことを祈るばかりである。でも体を噛むのはちょっと面白いので続けててもいいんじゃないかなと思う。

 

 

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ここのところ『散文』というタイトルでブログを書いてることが多いのですが、客観的にみて手抜きっぽいかなぁと思い始めました。

しかしこれというタイトルが思い浮かばないのも確かで、書き始めるときの動機や書いた後の内容のことを考えても、「なんかあのときこんな気持ちになったなぁ」だけだったりするので、結論としては特にタイトルをつけなくてもよいのではないかと思っています。

なので今回も『散文』です。このシリーズはどのくらい続くかな。

普段ゲームをしていることが多いので、「2016年上半期にプレイしたゲームまとめ」みたいなものを、自分用の覚え書きとしても残したいのですが、色々材料が必要な気がしてちょっとめんどくさがっています。気が向いたらそのうち書くかもしれません。

それではまた。